メモ 2013.10.10~

「誤った日本語」について調べてみます。

2-3 使用実態調査 「国会会議録検索システム」を使って

この記事では、「国会会議録検索システム」 (http://kokkai.ndl.go.jp/) を使って、1947年から現代にかけての「〈的/正鵠〉を〈射/得〉」の使用状況を調べてみます。

「国会会議録」は、戦後60年以上にわたるフォーマルな話し言葉が豊富に収録されており、戦後の言葉の変遷をたどるのに適した資料と言えます。ただ、会議録は、清書時に「整文(せいぶん)*1と呼ばれる校閲作業が入るので、実際の発言内容が必ずしも忠実に記録されているわけではないようです。

近年の会議の模様は、衆・参両院の「インターネット審議中継」 のサイト(http://www.shugiintv.go.jp/) ( http://www.webtv.sangiin.go.jp/) で動画が公開されており、ここで実際の発言内容が確認できます。今回会議録から採集した1,211の用例のうち、46例 (2010~2013年の用例の一部) を動画と照合したところ、次のようになりました。

会議録上の表記実際の発言との照合結果  一致   不一致  不明   (合計)
的を射 6 11 2 19
的を得 15 0 0 15
正鵠を射 2 1 2 5
正鵠を得 7 0 0 7
(合計) 30 12 4 46

※「一致」…「会議録」と「実際の発言」との間で語形が一致したもの
 「不一致」…同じく、語形が一致しなかったもの
 「不明」…発言が不明瞭で判別不能だったもの

「不一致」は、「的を射」と「正鵠を射」で発生していました。これは、会議録上では「射」と表記されていたのに、実際は「得」と発言されていたものです。

このように、会議録上のデータと実際の発言内容とは必ずしも一致していません。その点をご留意いただいた上で、以下の集計結果をご覧ください。

 

集計結果と分析

年代別の用例数は、以下の通りです (集計方法は、この記事の最後に書いてあります) 。 

種別\年代 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 (合計)
的を射 0 18 71 94 114 126 121 25 569
的を得 0 8 17 22 9 27 87 22 192
正鵠を射 1 5 12 15 17 12 21 6 89
正鵠を得 12 106 65 56 31 29 51 11 361
(合計) 13 137 165 187 171 194 280 64 1,211

分かりやすいように、年代ごとの用例数をグラフで表してみました。1940年代と2010年代は期間が10年に満たないので、除外しています。

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また、各年代の構成比をグラフにしてみました。こちらは1940年代・2010年代も入れてあります。 

f:id:kumiyama-a:20140422223809j:plain

傾向をまとめてみました。

  • 1950年代までは「正鵠を得」が全体の約8~9割を占めていた。

  • 1960年代以降、「正鵠を得」は急速に使用頻度が下がり、「的を射」が入れ替わるように主流になっていった。

  • 「的を得」は、1950年代にすでに使用例があったものの、使用頻度が高くなったのは1990年代以降。近年では「的を射」と拮抗している。

  • 「正鵠を射」は年の経過ともに使用回数は微増しているが、構成比は10%未満のまま一定している。

次に、「的を射」と「的を得」のみの構成比を算出し、グラフにしてみました。

f:id:kumiyama-a:20140422223808j:plain

1980年代に「的を得」の割合が1割未満にまで下がっていますが、近年では5割近くまで上昇しています。総計でみると、「的を射」と「的を得」の比は、おおよそ3:1になっています。

 

冒頭で述べた通り、「国会会議録」には校閲が入っています。上記の集計結果は、おおよその傾向として参考にすべきでしょう。

 
※「国会会議録」のデータ集計について
  • 集計結果は2013年7月5日現在のものです。

  • 「用例数」は、検索結果のなかから以下のデータを除外したものです。

    • 調査対象とは無関係のもの (「所期の目的を得られない」など)

    • 「的確 な/である」「核心を 突く/突いた」の意味から外れるもの

    • 他人の発言の引用
      例:《木村前外務大臣が読売の中で申しておりますことは、「当時交渉にあたった者として今回の回顧録は、正鵠を射た内容と思う。」と。

    • 慣用表現よりも隠喩に近いもの
      例:《現在は、一本目の矢が見事に的を射て、二本目の矢である緊急経済対策をまさに放った段階だと言えるでしょう。

  • 《正鵠・せいこく・せいこう・セイコク・セイコウ・的・まと・マト》 ×《得・え・射・い》を使った全ての組み合わせ (32パターン) を検索しました。そのなかで有効な用例を採集できたのが、「的を射」「的を得」「正鵠を射」「正鵠を得」の4パターンでした。

  • 用例は、「国会会議録検索システム」 (http://kokkai.ndl.go.jp/) のテキストデータのみを参照しました。冊子との照合は行なっておりません。

  • 用例は、会議録上に記録されているものをすべて数え上げました。同じ人物が繰り返し使った場合も、使った回数だけカウントしています。

2014年4月22日注記:グラフを、見やすいものに差し替えました。

*1:松田謙次郎 [編]『国会会議録を使った日本語研究』 (ひつじ書房 2008年 p.20) より

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久御山