メモ 2013.10.10~

「誤った日本語」について調べてみます。

第2章 使用実態調査  2-1 「神戸大学附属図書館 新聞記事文庫」を使って

この章では、「的を射る」「的を得る」「正鵠を射る」「正鵠を得る」の4つの慣用表現が、かつてどれほどの頻度で使われてきたかを調べてみます。

 

前章ですでに少し触れましたが、まずは「神戸大学附属図書館 新聞記事文庫」 (http://www.lib.kobe-u.ac.jp/sinbun/index.html) を使って、戦前期における4つの慣用表現の使用頻度を見てみます。「新聞記事文庫」では、1911年から1945年までの新聞記事 (総記事数22,000) がテキスト化されており、任意の文字列を検索することができます。

集計結果と分析

集計結果は次の通りになりました (集計方法については最後に詳述します) 。

  記事数 構成比
的を射 3 0.9%
的を得 0 0.0%
正鵠を射 1 0.3%
正鵠を得 347 98.9%
(合計) 351 100.0%

4つのなかで圧倒的に多く使われていたのは「正鵠を得」で、構成比は約99パーセントを占めています。

「正鵠を射」は、現代では辞書にも載るほど一般的な表現となっていますが、今回の調査では、該当記事数は1件しかありませんでした。

「的を射」は、1906年発行の辞書『俚諺辞典』 (金港堂) に採録されていることから、ある程度まとまった数の用例が集まってもおかしくなさそうですが、該当記事数を見てみると、わずか3件しかありませんでした。

「的を得」は、全く用例がありませんでした。戦前は、「正鵠を射」や「的を射」よりもさらに一般性に欠ける表現だったのかもしれません。ただ、前章で見たとおり、戦前に「的を得る」が使われた例がなかったわけではありません。

上記の集計結果をもって、戦前の使用状況全般について述べるのは問題があるかもしれません。しかし、控えめに見ても、戦前は「正鵠を得る」が文章語としては最も一般的だったとは言えるでしょう。

 

※「新聞記事文庫」のデータ集計について
  • 調査結果は2013年5月16日現在のものです。

  • 表の数値は「記事数」です。用例数ではありません 。※「正鵠を得」以外は、「記事数=用例数」 (1つの記事につき1つの用例) でした。

  • 「記事数」は、検索結果のなかから以下の3つのデータを除外したものです。

    • 調査対象とは無関係のもの (「的を得ざるなり」など)

    • 重複データ
      記事タイトル・発行日・記事内容が完全に重複していたものが4件あったので除外しました。それ以外に、文面が互いによく似通った記事もありました (例:こちらこちら) が、これはそのままカウントしました。

    • 「的確 な/である」「核心を 突く/突いた」の意味から外れるもの
      ただ、明治・大正期の文章の読解は、私には難解だったこともあり、一部誤読があったかもしれません。

  • 《正鵠・せいこく・せいこう・セイコク・セイコウ・的・まと・マト》 ×《得・え・射・い》を使った全ての組み合わせ (32パターン) を検索しました。そのなかで有効な用例を採集できたのが、「的を射」「正鵠を射」「正鵠を得」の3パターンでした。

久御山