メモ 2013.10.10~

「誤った日本語」について調べてみます。

第3章 辞書の解説  3-1 「的を射る」の場合

この章では主に、「的を射る」と「的を得る」の辞書での扱われ方を調べてみます。それ以外の表現も少し取り上げます。

 

「的を射る」はいつから辞書に載り、どのように解説されてきたのでしょうか。石山茂利夫『今様こくご辞書』 (読売新聞社 1998年 p.95) によると、戦前の主だった国語辞典に「的を射る」の語形は載っていなかったそうです。しかし第1章 (1-3) でも述べましたが、国語辞典以外の辞書にまで調査範囲を広げると、百年以上前の記載例が確認できます。

※用例・文献の引用方法について

1906年

(まと)()た。
 言能く其事をいひ當てたるをいふ。所謂正鵠を得たる義なり。

(『俚諺辞典』金港堂 p.472)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/900343/247
国立国会図書館デジタルコレクション (http://dl.ndl.go.jp/) より
※2016年6月10日追記:「日国友の会」に投稿済 (こちら)

戦前の辞書の記載例としては、ほかに次のものがありました。

1933年

(まと)()た】 物事が思ふ壺に入りて、目的を達せしをいふ。

(『俚諺大辞典』東方書院 p.878)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1453041/449
国立国会図書館デジタルコレクション (http://dl.ndl.go.jp/) より

石山さんの前掲書 (p.97) によれば、国語辞典が慣用句や用例を積極的に載せるようになったのは戦後になってからのことのようです。戦前の国語辞典に「的を射る」が掲載されていなかったのは、それが一因なのでしょう。

また石山さん (前掲書p.95) は、「的を射る」を初めて載せた国語辞典は『辞海』 (三省堂出版 1952年) であろうと述べられています。同辞典の「的」の項には、次のように書かれています。

1952年

[―〔的〕を射る]㋑うまく的にあたる。㋺うまく目的をなしとげる。㋩巧みに要点をつかむ。

(『辞海』三省堂出版 p.1722)

 

この後、国語辞典に「的を射る」が載る頻度が増えていきます。

1959年

〔的〕を射 ①うまくまとにあてる。②うまく目的をとげる。③たくみに要点をつかむ。「よく的をいた説明」

(『新選国語辞典』初版 小学館 p.807)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2488086/407 (国立国会図書館内限定公開)
国立国会図書館デジタルコレクション (http://dl.ndl.go.jp/) より

 

1960年

【―〔的〕を射る】㋑的にあたる ㋺目的を達する ㋩うまく要点をつかむ

(『旺文社国語辞典』特製版 旺文社 p.1056)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2493088/535 (国立国会図書館内限定公開)
国立国会図書館デジタルコレクション (http://dl.ndl.go.jp/) より

 

1960年

〔的〕を射①うまくまとにあてる。②うまく目的をとげる。③たくみに要点をつかむ。

(『新解国語辞典』初版 小学館 p.769)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2490172/388 (国立国会図書館内限定公開)
国立国会図書館デジタルコレクション (http://dl.ndl.go.jp/) より

 

1961年

をいる。〔語釈なし〕

(『三省堂小学国語辞典』改訂1版 三省堂 p.565)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2439675/291 (国立国会図書館内限定公開)
国立国会図書館デジタルコレクション (http://dl.ndl.go.jp/) より

 

1963年

〔的〕を射 ①うまく目的をとげる。②うまく要点をつかむ。

(『活用国語辞典』初版 日本教育新聞社 p.508)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2499204/260 (国立国会図書館内限定公開)
国立国会図書館デジタルコレクション (http://dl.ndl.go.jp/) より

 

1966年

〔的〕を射 () ①うまく目標に当たる。②目的をなしとげる。③うまく要点をつかむ。「的を射た批評」

(『講談社国語辞典』初版 講談社 p.975)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2511056/496 (国立国会図書館内限定公開)
国立国会図書館デジタルコレクション (http://dl.ndl.go.jp/) より

 

1970年

〔――〔的〕を射る〕 (一) うまく的にあたる。 (二) うまく目的をなしとげる。 (三) 巧みに要点をつかむ。

(『六万語国語辞典』金園社 p.702)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2499554/365 (国立国会図書館内限定公開)
国立国会図書館デジタルコレクション (http://dl.ndl.go.jp/) より

※「国立国会図書館デジタルコレクション」の出版年情報は1963年になっていますが、原本の奥付の出版年は1970年でした。

 

こうして1970年までの国語辞典を見てみると、ほとんどが『辞海』をベースに語釈 (語句の説明文) を書いているようです。

久御山