3-2 辞書の解説 「的を得る」の場合
「的を射る」に続いて、「的を得る」の場合を見てみます。石山茂利夫『今様こくご辞書』 (読売新聞社 1998年 p.94) によると、「的を得る」を初めて載せた国語辞典は『三省堂国語辞典』第3版 (1982年) とあります。同辞典を確認すると、「的を射(イ)る」の項の最後に次のように記載されていました。
この後、他の辞書ではどのように解説されていったのでしょうか。私が確認した辞書 (国語辞典以外も含む) を年代順に並べてみます。
※「的を得る」が誤用であるとの注記はありませんでした。
※「的を得る」が誤用であるとの注記はありませんでした。
※「本来は誤用」ということは、現代では (俗用ながらも) 使用を認める立場なのでしょうか。
「的を得る」は、1980年代に入って『三省堂国語辞典』にようやく掲載されましたが、他の辞書が追随するまでその後10年以上かかっています。「的を射る」とは異なり、近年になるまで重要語とは見なされなかったのでしょう。また、「的を得る」を見出し語にしている辞書は『日本国語大辞典』のみで、他は「的を射る」の項で「的を得る」が解説されていました。さらに、 ほとんどの辞書 (『日本国語大辞典』と『慣用表現辞典』以外) が、「的を得る」を誤用と解説していました。
上の記事を書き終えた後に『三省堂国語辞典』第7版が刊行されました。今回の改訂で、同辞典は「的を得る」の解説を大きく変更しました。これについては次回取り上げます。
2015年2月17日追記:
ベネッセコーポレーションの『チャレンジ小学国語辞典』は第6版 (2015年) が新たに刊行されましたが、「「
2015年2月27日追記:
小学館の『例解学習国語辞典』第9版で「的を得る」を誤りとする記述を見つけました。
2011年
まとをいる【
(『例解学習国語辞典』第9版ドラえもん版 小学館 p.1070) [2013年 第6刷]
※通常版は2010年の発行でした。
同辞典は2014年11月に第10版が刊行されましたが、「あやまり」の注記はそのままでした。
2015年12月12日追記:
1994年刊行の『学研 レインボー小学国語辞典』改訂新版で、「的を得る」を誤用とする記述を見つけました。
同辞典はその後『新レインボー小学国語辞典』と名が変えられ、2015年12月に改訂第5版が刊行されました。そこでは、「あやまり」が「本来の言い方ではない」と書き換えられました。
2015年
まとをいる【的を射る】
〔「金田一メモ」とは、監修の金田一秀穂先生による注記のこと。★の部分には金田一先生の似顔絵が入っていました〕
(『新レインボー小学国語辞典』改訂第5版 学研プラス p.1199)
2015年12月12日追記:
2010年刊行の『小学新国語辞典』改訂版 (光村教育図書) の欄外に、言葉に関する穴埋めクイズが掲載されていました。このなかで、「的を射た/得た」のいずれかを選択させる問題がありました (「正解」は「①射た」) 。
2010年
◖ に
(『小学新国語辞典』改訂版 光村教育図書 p.931) [2014年第8刷]
2015年12月16日追記:
2015年12月発売 (奥付の刊行年は2016年) の『例解新国語辞典』第9版で、「的を得る」に関する解説が書き換えられました。旧版では「「当を得る」とまぎれて、誤(あやま)って「的を得る」と言われることもある。」となっていたのが、今回の版では誤用の注記が取り消されました。
2016年2月3日追記:
小学館の『大辞泉』は、2012年刊行の第2版では 「的を得る」を誤りとしていました。
2012年
的を◦射いる
〔この補説の後ろに、文化庁の平成15年度「国語に関する世論調査」の結果が引用されていました〕
同辞典のネット版「デジタル大辞泉」には「誤り」の注記がなく、「国語に関する世論調査」の結果のみが記載されていました (2016年2月3日現在) 。
2016年11月15日追記:
小学館『現代国語例解辞典』第5版が刊行されました。「的を得る」については旧版と内容が変わらず、「誤り」となっていました。
2016年12月8日追記:
『学研現代標準国語辞典』改訂第3版が刊行されました。「的を得る」については、「あやまり」の注記が「本来の言い方ではない」と書き換えられました。
2016年
的を
(『学研現代標準国語辞典』改訂第3版 学研プラス p.1356)