メモ 2013.10.10~

「誤った日本語」について調べてみます。

4-3「的を得る」の使用実態について書かれた資料

この記事では、「的を得る」の使用実態について書かれた資料を見てみます。文化庁の「国語に関する世論調査」のほか、1973年に発表された論文を取り上げます。

 

文化庁の調査

文化庁の「 国語に関する世論調査」では、平成15年度平成24年度に「的を 射る/得る」の使用実態が調査されています。

これによると、平成15年度調査では半数以上 (54.3%) の人が「的を得る」を使うと回答したのに対し、平成24年度調査では52.4%が「的を射る」を使うと答えており、形勢が逆転しています (下表参照) 。

  平成15年度 平成24年
的を射る 38.8% 52.4%
的を得る 54.3% 40.8%

10年弱で「的を得る」の使用率が14ポイント近く減少したのは、この間に「〈的を得る〉は誤り」という情報が広く浸透したからなのでしょう 。そうだとすると、回答者は「自分は普段どちらを使うか」ではなく、「どちらが正解か」という観点で設問に答えていた可能性があります。

次に、年齢別の回答結果をグラフで見てみます。

※「〈的を 射る/得る〉の両方とも使う」「両方とも使わない」「わからない」の回答結果は除外しています。f:id:kumiyama-a:20140428223815j:plain

 

f:id:kumiyama-a:20140428223816j:plain

平成15年度の調査では、10歳代で「的を射る」がやや優勢、60歳以上では「的を得る」と「的を射る」が拮抗していて、他の世代は「的を得る」の使用率の方が高くなっています。平成24年度調査では、すべての世代で「的を射る」が優勢になっています。

双方の調査結果で注目すべき点は、10歳代で「的を射る」の使用率が非常に高いことです。特に平成24年度の調査では、実に7割以上が「的を射る」を使うと回答しています。これは、4-1-2 で取り上げた、法政大学社会学部教授・金原瑞人先生の新聞コラムでの証言とも符合します。

一般に「言葉の誤用」といえば若い世代で特に観察される傾向にありますが、「的を 射る/得る」の問題の場合は、若年層の方が、 「正用」とされる「的を射る」を多く選んでいます。これは、学校等で「〈的を得る〉は誤り」と教わるからなのでしょうか。あるいはほかに理由があるのでしょうか。いずれにせよ、この傾向がこのまま続けば、今後「的を射る」の使用率はすべての世代でさらに上昇するでしょう。

 

1973年の学術論文からうかがえる「的を得る」の使用実態

次に取り上げるのは1973年に発表された心理学の学術論文で、

  • 青木孝悦「性格側面57についての2,3の研究 ―反意語,言い換え語,特性所有のタイプ―」
    (『千葉大学人文研究』第2号 千葉大学人文学部 pp.35-58)

というものです。心理学では、人の性格に関する調査研究をする際に、「てきぱきした」「慎重な」などの「ひとの性格を表現する言葉」を使って、被験者に質問をすることがあります。この論文は、そうした表現が被験者にどのように理解されているかを調べたものです。

これは心理学の論文ですから、「国語に関する世論調査」のような内容が書かれているわけではないのですが、たまたまこの論文のなかで、この当時における「的を 射る/得る」の使用実態を垣間見ることができる記述を見つけました。

それは、千葉大学の学生48人に「ひとの性格を表現する言葉」を示し、反意語 (反対の意味をもつ言葉) を書いてもらう調査を行なっている箇所です。このなかで「ピントはずれ」という項目があったのですが、この反意語として、21人 (約43.8%) が「的を得た」を、5人 (約10.4%) が「的をいる」を挙げた、という結果が出ています (p.57。回答は選択式ではなく、自由回答) 。

なぜ「的を得」と「的をい」で動詞の活用形が異なっているのか、という点が少々気になりますが、もしこの集計が「的を得」と「的を射」を振り分けた結果であるならば、 4:1 の割合で前者が多く回答された、ということになります。

 

まとめ

青木先生による1973年の調査と、文化庁の平成15年度調査の結果を見ると、この当時「的を得る」は一般に広く使われていた表現だったと考えられます。

一方で、文化庁平成24年度調査で「的を射る」の使用率が急上昇した点や、この時期に若年層で「的を射る」の使用率が突出して高くなった点に鑑みると、近年「的を射る」が多用されるに至った要因は、人為的な働き (学校教育等が原因か) によるところが大きいと言えそうです。

広告を非表示にする
久御山